新入社員の内に読んでおきたい、ロジカルシンキングの入門書


 

私が所属する会社の新入社員は、新入社員研修でロジカルシンキングの講義を受講する。

ロジカルシンキングの講義では、MECE、ロジックツリー、ピラミッドストラクチャー等の、ロジカルシンキングのベースとなるツールの利用法を学ぶのだが、これらツールは「知識」ではなく「道具」であるため、幼少時に自転車の乗り方を体で覚えるのと同じく、ふらふらしたり倒れたりしながらも、とにかく使い倒すことが上達の秘訣である。

今後、プロジェクトの現場に出て行く新入社員への研修受講後のフォローアップとして、新入社員に推薦するロジカルシンキング関連の書籍を探しており、その時に手に取った一冊が本書である。

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私の探していた本は、ピラミッドストラクチャを作成する演習が数多く掲載されており、

「メッセージは何か?(結局何が言いたいのか?)」

「そのメッセージの根拠は何か?(どういうロジックなのか?)」

を、演習を通じ、体で覚えることのできるような本である。
この基準から言うと、本書は基準を満たさない。

本書は、「ロジカル・シンキング―論理的な思考と構成のスキル (Best solution)」や「考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則」等のお硬い系の書籍とは異なり、ロジックツリー、ピラミッドストラクチャーといった用語そのものの説明は、必要最低限に留められている。

本書では、仮想のコミュニティ「赤国」での「ピンキー」なる魚(?)の男の子の学生生活、サッカー留学先である「緑国」での生活、そしてピンキーの住む赤国で発生した、コミュニティ全体の行方を左右する問題の解決を通じ、日々の生活において、いかにロジカルシンキングを応用し、問題解決を行うかが、物語として描かれている。本書の大部分は物語で占められており、ロジックツリーやピラミッドストラクチャの図は一部に挿絵として挿入され、説明がなされるのみである。よって、本を読み、繰り返し演習を行うタイプの本ではない。
 
 
しかし、ではこの本の価値がないかというと、全くそんなことはない。新入社員には、ぜひ本書を手にとって読んでみてほしい。

なぜ、新入社員に読んでみてほしいのか?
それは、ロジカルシンキングはビジネスシーンだけでなく、日常生活においても有用な道具であることを理解してほしいからだ。

イケてないロジカルシンキングの本では、背景や理由・目的は度外視して、とにかく何かをMECEに分類することに終始していたり、ロジックツリーを作って終わり(「で?(So What?)」の視点が抜けている)ということが多い。

本書は、物語がベースになっているため、ロジックツリーやピラミッドストラクチャを具体的に「どう使うか」が理解しやすい。ロジカルシンキングのツールを、どんな場面で、どう使えばいいのか、そして、それはどんな効果があるのかがわかりやすい構成となっている。

また、物語がビジネスシーンをベースにしていない点もいい。ビジネスシーンを題材にしてしまうと、学生や新入社員にとっては具体的な利用シーンをイメージしにくいものになってしまうからだ。

そして、最もいい点は、本書の主眼が、「ロジカルに物事を考えること」だけでなく、「いかにして自分の意見を持ち、周囲の人々との対話を通じて、真の相互理解を実現するか」に置かれている点だ。

新入社員からは、「ロジックツリーやピラミッドストラクチャーって、どうすれば身につくものなんですか?」という質問を受けることがある。しかし、ロジックツリーやピラミッドストラクチャーは、あいまいさや論理的矛盾を排除し、自身の主張を整理するための道具に過ぎず、本当に大事なことは、この道具をうまく活用し、問題を解決したり、日々の生活を豊かにすることであるはずだ。各章の章末には、「海亀」なる長老による章のまとめが掲載されており、ロジカルシンキングのテクニックを超えて、特に若い世代を対象とした著者からのメッセージが込められている。
 
 

本書を読みながら、この内容であれば、工夫すれば小学生や中学生向けのロジカルシンキングの授業でも使えそうだと考えていた。ググってみると、実は著者の渡辺さんは、マッキンゼー退職後にDelta Studioなる会社を立ち上げ、子供から社会人までの幅広い年齢層を対象とした、「問題解決」の技術をレクチャーする教育事業をなさっているらしい。

インターネットの普及とGoogle等のインフラの整備(知の高速道路)により、Web上の無尽とも思える膨大な情報へのアクセスは可能となった。人間には、金持ちにも貧しい者にも、1日86400秒が平等に与えられるが、それをどう活かすかはその人次第。Web上の膨大な情報も、「1日86400秒の時間」と似ている。その膨大な情報を活かし、自らの意見を持ち、日々の生活を豊かにするための重要な習慣の1つが、ロジカルシンキングと言えるだろう。

無論、ロジカルシンキングだけで渡って行けるほど、世の中甘くないが・・・・でも、若い学生に「問題解決」の手法を教えることは、とても有益だと思います。渡辺さんの事業、がんばってください!

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